スマートフォンやタブレットでの動画閲覧をはじめ、学校の宿題やオンライゲームやSNSなど、現代社会に生きる子供たちは、幼少期からデジタル機器に触れる機会が多く、もはやそれらが生活の中にあるのが当たり前といえます。こうした、生まれた時からインターネットやパソコンのある環境で育ってきた子供達は「デジタルネイティブ」と呼ばれています。
デジタルネイティブの子供達は、幼い頃からデジタル機器に触れているため、インターネットが存在する以前の人々よりも格段に生活が便利になっていますが、一方ではオンライン上での犯罪など子供達へ迫る危険は増すばかりです。今回はそんな子供達に対するセキュリティ教育に関して紹介します。
日本の学校教育でのセキュリティ教育
日本で最初にデジタルネイティブと呼ばれた世代は、主に1980年前後生まれの人でした。彼らは一般家庭へのインターネットが普及した1995年以降に学生時代を過ごし、インターネットやパソコンのある環境の中で育ってきた世代です。その後、1990年代後半以降は社会人のみならず、中高生でも携帯電話を持つことが珍しくなくなりました。
その後、21世紀に入ってからはインターネット技術は瞬く間に進化を遂げ、私達の生活に必要不可欠な存在にまでなりました。しかし、まだ危機管理能力が未熟な未成年などが携帯電話を持つことで犯罪に巻き込まれたり、ネットいじめが発生しはじめたのも事実です。
そこで、2008年に文部科学省から告示された学習指導要領に「情報モラル教育」が新たに追加されました。これは様々な事件や犯罪に巻き込まれないためにも学生が授業においてインターネット上での行動やセキュリティに関する知識を習得し、それを教える教員も、変化し続ける情報社会の特性を理解することを目的としていました。
この情報モラル教育は、小学校低学年(1、2年生)、小学校中学年(3、4年生)、小学校高学年(5、6年生)、中学校、高等学校と主に5つの段階に分けて内容を取り決め、子供達の発達に合わせてインターネット上でのルールや倫理観などが教えられました。
しかしながら、ここ数年はインターネットを取り巻く環境が急速に変化しており、法の改正やデジタル教育が追いつけていないのが現状です。特に現代の2010年代以降に生まれた子供達は、オンライン上でのセキュリティ対策を学ぶ前の物心ついた時には既にスマートフォンやタブレットを使用しているので、そういった世代への対策が急務といえます。
年々、増加するインターネット上でのネットいじめや犯罪
ネットいじめやオンライン上での犯罪は年々増加しており、特に未成年が巻き込まれるのはSNSに関連する事件です。総務省の令和4年度の情報通信に関する現状報告の概要のうちの年齢階層別SNSの利用状況によると、6~12歳の3人に1人以上がSNSを利用しており、13~19歳に至っては実に約9割の人が利用しています。
また、日本でSNSに関連した事件に巻き込まれた未成年の被害者数は過去10年間で約2倍にも増えています。被害者はX(旧Twitter)やInstagramなどのダイレクトメッセージで見知らぬ人と連絡を取って結果的に犯罪に巻き込まれてしまい、最近では高額アルバイトの募集と謳う犯罪に巻き込まれる未成年の事件も後を絶ちません。このことからもわかる通り、サイバーセキュリティに関する知識が乏しいと様々な事件に関わってしまう可能性が高いということです。
そして、口頭などオフライン上でのいじめももちろんよくはないですが、ネットいじめの場合はその記録がインターネット上で半永久的に残ってしまうことが問題といえます。最近はインターネット上でのいじめによって自ら命を絶ってしまう若者も少なくなくありません。
普段のオフラインでの生活同様、子供達がオンライン上で自分が何をしてよくて、何をしてはいけないのかということをしっかり学ぶためには、学校で教員をはじめ、親など家族のサポートと教育が不可欠といえます。
オンライン上のマナーを教えるのも親の務め
子供がサイバー犯罪に巻き込まれないために親や家族ができることはたくさんあります。特に現代では、幼い頃からスマートフォンやタブレットなどのデバイス使用しているので、親や家族はより早い段階からオンライン上のルールやセキュリティについて教育する必要があります。
まず、子供が各デバイスをさわり始める前に物事の善悪を教えることが大事です。オフラインの生活と同じように他人のメールを盗み見たり、友達を匿名のメッセージでからかうなど、好ましくない行動を取ったらきつく叱るようにしましょう。最初はいたずら心で始めた行動も、顔が見えず匿名で行われるためにどんどんエスカレートし、やがてネットいじめへ発展していく可能性があります。子供によるネットいじめにおいて、一番重要なのが加害者意識がないことです。悪いことと思わずに相手を傷つけてしまうという行為は子供の頃に経験したことがある人も少なくないでしょう。もし、子供がこうした行動を行なった場合は、問題点をうやむやにせずにしっかりと見極め、家庭で面と向かって直接話し合うことをおすすめします。その際、オンライン上の世界でもルールがあり、責任ある行動をとらなくてはいけないということを教え、適切な判断ができる力を身につけさせる必要があります。
セキュリティ対策として気をつけるべきポイント
デジタルネイティブである子供達をオンライン上の危険から守るには、子供の成長に合わせた適切なセキュリティ教育が必要となります。下記ではすぐにでも実践可能な5つのアドバイスを紹介します。
セキュリティ教育は低年齢時から
子供に対するセキュリティ教育は、低年齢時からスタートすることが重要です。YouTubeを視聴したりし始める3歳頃から、子供の成長に合わせ十分に時間を取って反復学習させましょう。そして、インターネットで視聴できるものは全て正しいものとは限りません。好ましい内容や家庭の価値観に沿うものでない場合は視聴を止めましょう。
まずはパスワードからスタート
パスワードは最も初歩的なセキュリティ対策です。最初は、簡単に覚えられるパスワードを教え、誰にも言わないよう言い聞かせましょう。小学校に入学後は簡単に思い出せて推測されにくいパスワードを自分で作らせ、その後はスキルに合わせて複雑なものに変更していくと良いでしょう。また、3ヶ月に1度はパスワード変更することも習慣づけてください。
オフラインと同じ振る舞いを
オンライン上では、12歳の女の子だと自己紹介していたのが実は40歳の男だったいう事例はたくさんあります。実生活で知らない人について行ってはいけないように、オンライン上だけで接点のある「見知らぬ人」とは、絶対に会わないよう言い聞かせましょう。実生活と同じように友達に言ってはいけないこと、してはいけないことは、オンライン上でも絶対に言ってはいけないということを理解させましょう。
SNSに個人情報を投稿させない
SNSに投稿した自分の個人情報は、友達以外の目に触れる可能性があり、仮に削除しても多くはネット上に残り続けることを認識させましょう。また、子供が使用しているSNSのプライバシー設定が安全な状態になっているかを必ず定期的に確認しましょう。
与える前にインターネット機能の確認を
ノートパソコン、タブレット、スマートフォンなどを子供に買い与える場合は、直接インターネットに接続できるかどうかを必ず確認してください。直接つながるようであれば、安全に接続する方法を併せて確認してください。子供が適切にインターネットを利用するためには、パソコンを家族の目に留まる場所に置くことも有効です。夜間はWi-Fiをオフにすることを検討してもよいでしょう。
まとめ
日々、急速に変化するこのデジタル環境の中での子供達への教育は、今後、学校と保護者にとって大きな課題となるでしょう。まずは、オンライン上でのルールを子供に教え、安全にインターネットを利用できるようにすると共に、他者のプライバシーを尊重しソーシャルメディア上でも責任ある行動を学ばせることが重要です。そして、何よりも親には子供を守る責任があります。子供がサイバー犯罪の被害に遭わないためにも、幼少期からオンライン上でのルールを教える義務があります。
さらに近年は、世界的なコロナ禍の影響で自宅でのリモート学習が普及し、それに合わせた新たなセキュリティ対策も実行していかなければなりません。このように時代の変化に合わせて、子供だけでなく、保護者も新たなセキュリティ対策を学ぶ姿勢を常に持ち続けることがサイバー犯罪に対する一番の防御策となるでしょう。